シニアペットと暮らして

きゅうぴーとの“にゃんダフルライフ”

きゅうたちゃん・11歳
公募

著者/楠本夏美

12年前のある日、我が家の庭にひょっこりとガリガリの仔猫が現れた。完全なる犬派だったわたしだったが人懐っこくまとわりついてくるその仔猫にまんまと心奪われた。しかし家族の一員として迎え入れるには乗り越えなければならない大きな壁があった。眉間にシワをよせながら「絶対家の中に入れるなよ。」と繰り返す父だ。そんな事情を知ってか知らずかその仔猫は最強の愛嬌でするりと父の懐に入り込み、あれよあれよと言う間に『きゅうた』と名付けられ楠本家の一員になった。愛称はきゅうぴー。

ハーネスをつけてドライブに出発!

きゅうぴーが我が家に来てはじまった猫との暮らし。はじめてのことばかりで戸惑うことや大変なこともあったけど幸せいっぱいの毎日だった。
歩く家族の足をおもちゃにして追いかけ噛みつき傷まみれにしたかと思えば、ぐびぐびピーピーといびきをかきながら大の字で眠り、モリモリごはんを食べて、ガリガリだった仔猫はあっという間にムキムキのマッチョまんへと成長した。
「ほんまに猫?」と思うほどお風呂も歯磨きも耳掃除もそつなくこなしたし、暇さえあれば毛繕いをするほどかなりの綺麗好きだった。病院や大好きなお散歩に出かける時はハーネスを愛用し、猫らしからぬ立派な体格と堂々とした態度から犬に間違えられることもしばしばあった。

4年前に急にできた弟猫のチビとも仲良くしてくれ、時には厳しく兄としての威厳を見せつけてもいた。
チビが闘病の末に虹の橋を渡ってしまった時になんとか気持ちを持ち直せたのはきゅうぴーがそばにいてくれたからだった。

お気に入りのベッドでご満悦

チビがいなくなって1か月後の2020年12月、ドタドタとすごい音を立てながらきゅうぴーが急に階段から転がり落ちてきた。急いで駆け込んだかかりつけの動物病院で心臓に病気が見つかった。医師からは「今日明日が山場で、たとえ持ち直しても年を越すのは難しい。」と言われた。頭が真っ白になって身体はガタガタ震え涙が止まらなかった。そんな様子を気遣ってくれたのか誰もが想像していなかった脅威の生命力をみせつけてくれ、クリスマスの日にまさかの退院を遂げて我が家に帰って来てくれた。
まさに『聖夜の奇跡』だった。

だからといって病状がよくなったわけではなく、いつなにが起きてもおかしくない状況に変わりなかったがその中でも今まで通り穏やかな日々を過ごしてた。
酸素室のレンタルに加え1日10錠を超える朝晩2回の投薬と5日に1度の家での点滴も欠かせなかったが、不慣れなわたしたちにきゅうぴーは大人しく協力してくれた。
そんな日々が2年ほど続いた頃には、もしかしたらこのままずっと一緒にいれるんじゃないかと思うようになっていた。
でも現実は甘くなかった。
11歳の誕生日を迎えた翌月”その時”は急にやってきた。
いつもの定位置でお昼寝していたきゅうぴーが後ろ足を引きずりながらこちらに歩いてきた。
「あ、血栓とんだんや」とすぐ分かった。
以前から医師に血栓はいつとんでもおかしくない状態で、とんでしまうと回復は厳しいと以前から告げられていたためである。
バタバタとかかりつけの病院に駆け込んだが診察台にのる頃には息も荒く目もうつろになって来ていた。
そんな状態にもかかわらず涙と鼻水でぐちょぐちょのわたしたちをしっかりした瞳で見つめ、最期の瞬間まで声に耳を傾け続けてくれた。

弟猫チビと仲良く食事中

日に日に荒くなっていた呼吸、数ヶ月前から腹水がたまってパンパンになってきていたお腹、見えてない気づいてないことにして過ごしていたけど遂に“その時”がきてしまった。

最期のその日にもしっかりとお昼ごはんを食べ、毛繕いまでこなしていたおかげで、いつもの寝姿となにも変わりない姿だった。
どんどん硬くなる身体に触れながら涙と鼻水が止まらなかった。
火葬が済み、納骨の時、なかなか現実を受け入れられずにいるわたしたちの目に止まったのはきゅうぴーの太く綺麗な骨だった。
病院の先生からもお墨付きをもらうほどのマッチョまんだったきゅうぴーの骨はそれはそれは見事で立派だった。
あんなに悲しく辛い気持ちで溢れていた心にほんわかした温かい気持ちが入ってきた瞬間だった。
それと同時にきゅうぴーの死を実感した瞬間でもあった。

家族になってすぐの頃

とは言っても家の中では姿を探してしまうし、ふっとした瞬間に名前を呼んでしまう。
『きゅうぴーのいない生活』に慣れるまできっとまだまだ時間がかかるだろう。
『いて当たり前だった日々』がいかに『かけがえのない日々』だったのかを痛感する毎日だ。
一日何度も写真の中のきゅうぴーに話しかける。

2年前のあの日からきゅうぴーにとったらしんどくて痛くて辛い日々がはじまってたんかな?
でもきっと悲しみに暮れるわたしたちを気遣って力の限り頑張ってくれてたんやんな?
もう頑張らんでいいでって言ってあげられなくてごめんな。

足を枕に爆睡中

きゅうぴー、たくさんの幸せをありがとう。
笑顔をありがとう。気遣いをありがとう。
最高の毎日をありがとう。