シニアペットと暮らして

ママのジェスチャーおぼえたよ!

クッキーちゃん・15歳
公募

著者/クッキーママ

「家の中で犬?ダメだよぉ」医師はきっぱりと言いました。
当時夫は人工透析を受けていましたが、夫婦間の生体腎移植を決意し手術に向けて様々な検査が進んでいた頃です。
移植後は透析に伴う時間的な制約や厳しい食事制限から解放される一方で、
免疫抑制剤により感染症にかかりやすくなるというデメリットもあります。
移植を受けた患者が犬と暮らしても問題はないかそれとなく聞いたところ、冒頭の言葉が返ってきたのです。
「犬を飼っています」とはっきり言わなかったのは、「ダメ」と言われるのが怖かったからです。

8月2日。酸素室の中でようやく伏せましたが、不安そうな表情です。

クッキーは大きめのトイプードルで生後5か月でした。
仔犬とは思えない体力で家中を走り回り、椅子の脚やタンスの角をかじり、留守番中のサークル内はうんちまみれ。
甘嚙みも激しくしつけに手を焼いていました。
これじゃ無理だよね、自分でもそう思うほどの状況でお先真っ暗でした。

ところが同じ質問に別の医師が「ちゃんとしつけて、一緒に寝たり顔や手をペロペロさせなければ大丈夫じゃないかな」と言ってくれたのです。
ならば、とクッキーを3か月間トレーナーの先生に預けました。
飛びつかない、引っ張らない、噛まない、舐めない、そして飼い主の指示に従うことを徹底的に覚えてもらいました。
おいで、待て、座れ、伏せ、などハンドサインもマスターしました。
「good boy!」カッコイイ誉め言葉も教えてもらいました。
クッキーの頑張りのおかげで、移植後の一番大変な時期を何事もなく乗り切ることができたのだと思っています。

何年も前ですが近所の子供たちが「この犬、お手とかお座りとか芸ができますか」と聞いてきたので、ハンドサインで座らせたりスピンをさせると拍手喝采!
僕にもやらせて、私にもと順番待ちができるほどの人気者に。
子供たちは私が教えた「good boy!」を連発し、クッキーも立ったり座ったりクルクル回ったり得意げな様子で応じていました。

13歳。何か指示をください。おやつが欲しいです。

でも15歳となり脚や腰に違和感でもあるのか、お座りも伏せもしなくなりました。
思えばほとんどのハンドサインはもう必要ないのです。
ドッグランにも行かないので呼び戻すことはありません。
すれ違うわんちゃんめがけて駆け寄ることもなくなったので、「待て」を使う場面もありません。
ほめてもらいたくて、ご褒美が欲しくて指示を待つことも今ではありません。
「good boy!」の声もクッキーの耳にはほとんど届いていないようです。
ほめられることが少なくなったことをクッキーはどう感じているのだろうか。

そんなことを考えていたら「good boy!」をジェスチャーで表したらどうだろうと思いつきました。
童謡のきらきら星のように手をキラキラと輝かせる仕草はどお?
夫は少し考えるような顔をしていましたが、私はそれに決めました。
すごく頑張った時には両手でキラキラキラキラ、軽くほめるときには片手でキラリ、
そしてご褒美。
仔犬のしつけのようにこれを繰り返していると「ママがキラキラするとなんか、いいぞ」と
嬉しそうな反応をしてくれるようになりました。
キラキラ=おやつ、そんな解釈でもまあいいかと思っていたつい先日のこと。

生後7ヶ月。トレーナーの元で厳しい訓練を積みました。

クッキーが僧帽弁閉鎖不全症から肺水腫を起こし夜間に緊急入院したのです。
狭い酸素室の中でハアハアと苦しそうな呼吸で不安な表情を浮かべています。
1時間以上も立ったまま落ち着かない様子です。
なんとか楽にさせてやれないか。
酸素室の前で伏せのサインを繰り返すとクッキーがゆっくりと伏せたのです。
「good boy!」「そうそう、いい子」「おりこうだね」たくさんの褒め言葉をつぶやきながら両手を思い切りキラキラキラキラして見せました。
「でもおやつはあげられないの、ごめんね」と作り笑顔でキラキラを続けました。
もはや何のジェスチャーなのかわかりません。
でもしばらくするとクッキーはうとうと眠りはじめたのです。
ときおり目を開けて私の姿を確認するのでそのたびにキラキラを繰り返し、
長い長い夜を過ごしました。

今回は3日後に退院できましたが、この先どのくらい一緒にいられるかわかりません。
クッキーには小さな頃から、我慢することや頑張ることを多く求めてきたので、
これからは自分のペースで思うように過ごしてほしいと思っています。
このキラキラジェスチャーは、頑張れのサインではありません。
今日も明日もクッキーに「good boy」を伝えたいと思います。