シニアペットと暮らして

桜が舞うたびに、あなたの鳴き声を思い出す。

さくらちゃん・18歳
公募

著者/絢音

私が初めてお迎えしたワンコである「さくら」が、空へ旅立ってからもうすぐ1ヶ月が経つ。今も私の中では世界一愛しい存在だし、それはこれからも変わらないと思う。

我が家に来て1年ちょっと。隣は妹ワンコのメメ。

13年前、彼女は動物愛護協会から私の家にやってきた。推定年齢は5歳。元ブリーダー犬でポメラニアンの女の子。施設の方いわく、警戒心が強く一度も鳴き声を聞いたことがないらしい。ご飯もなかなか食べてくれなかったとか。しかしそんな彼女だったが、私たちによって「さくら」と名付けられ家族になった。はじめは本当に大人しくて、いつもゲージの隅で震えていた。でもそれは本当にはじめだけ。しばらく経つとパクパクご飯を平らげ、宅急便のお兄さんには怖がられるほど吠えていた。そう、さくらは本当は明るくてお茶目で食いしん坊な女の子だったのだ。ただ、他のワンちゃんや子供は苦手なようで1年後に迎え入れた妹ワンコにはひたすら無視を繰り出していた。

洗濯物を取り込むときに見上げてくるさくら。

そんなさくらは私より私を知っていると思う。小学生の私から、社会人の私まで見てきているから。強がって家族の前で見せなかった涙も知っているから。でも負けないくらい私もさくらを知っている。大人しい振りをしていた過去も、犬見知りなところも、いつだって遊んでほしいところも。庭に出ているとき、洗濯物を取りこもうと窓を開けるといつも構ってほしい顔で見上げてきたよね。

大学生になって実家を離れた私は、さくらと触れ合う時間が格段に減った。それでも帰省すると、さくらはいつも満点の笑顔で駆け寄ってきたのだ。お盆休みは5時に起床して散歩した。さくらの笑顔があれば早起きなんてへっちゃらだった。そんなさくらとのお散歩も、知らぬ間に最後の時を迎えたのだった。足腰が弱くなり、家の庭を数歩歩くだけで大変そうだった。それでも立ち上がろうとするので、私はすぐ隣でその姿を見守った。大好きだったご飯も残すようになった。液体状のものを少し舐めてごちそうさま。昼も夜もぐったりと寝ているようになった。宅急便のお兄さんにも気付かなくなり、そういえば鳴き声を聞いたのはいつが最後だっただろうか。

そんな姿になってからとても印象的だった出来事がある。さくらが危篤かもしれないと家族から連絡を受け、急いで帰省した週末。家に着くなりすぐさまさくらのもとに行った。うつろな目で頭を上げることもなかった。低くかがんで目線を合わせると、僅かに尻尾が動いたのだ。今までで一番小さく、それでも力強く揺れたのだ。「あぁ、この子にとって、私を見たら尻尾を振るって決まっているんだな。」と思った。辛いだろうに、ありがとうねと伝えた。そしてその翌日、さくらは旅立った。少しだけ苦しそうに、スッと意識を手放した。

なくなる1週間前。庭を散歩した後の休憩中。

そんなさくらは、やがて骨になった。ピンク色のガーベラと共に魂は旅立っていった。 「ありがとう。」 何度言っても足りないくらい。あなたの存在が私の毎日を明るくしてくれた。あなたのふわふわな感触、ちゃんと覚えてるよ。いつだってまっすぐに私をとらえた優しい笑顔、忘れないよ。私は一生、桜の木を見るたびに、桜味のスイーツに出会うたびにあなたのことを思い出すよ。私のもとを選んでくれてありがとう。私がそっちに行くのは、まだまだ時間がかかるけど、友達作って待っててね。犬見知りなあなただけど、本当は優しくて温かいこと、きっと分かってもらえるよ。そしてたまには、私たちのこと思い出してね。元気で。