シニアペットと暮らして

保護犬のリムが教えてくれたもの

リムちゃん・15歳
公募

著者/中里 裕輔

我が家にはクッキーというダックスがいた。クッキーが老衰で亡くなってから、私たちはいわゆるペットロスになった。散歩する近所のペットを見るたびに悲しくなり、そんな私たちを見かねた友人があることを教えてくれた。

「保護犬って知ってますか」

保護犬と聞くと、それまでの私は保健所で殺処分されるのを待っているというイメージしかなかった。気になった私はすぐに「保護犬」をパソコンで検索した。するとそこには私の知らない世界があった。その中であるページにたまたま行き着く。それがリムとの出会いだった。

推定10歳オスのダックスの名前はリム。性格は人懐っこく、甘えん坊。保護された経緯のページを熟読すると、ページの最後に掲載期間というのが表示されている。中には殺処分まであと何日と表示されている子もいて、そのページを見るたびに胸が苦しくなり、画面を閉じてしまうこともあった。

リムが掲載された画面が二人とも頭から離れない。考えは同じだった。
翌日、保護している方へ連絡を取り、保護犬に対する理解など丁寧に説明を受けた。そのすべてを受け入れ、リムは我が家の家族になった。

トイレも場所が変われば覚えなおすのに苦労すると聞いていたが、リムは1日でトイレも覚えてくれた。玄関の前でさせるように教えると、トイレの際はリビングのドアの前で吠えずに黙って待っている。吠えると叱られた経験があるのだろうか、すぐに気付けない時もあった。

推定14歳。とにかく箱などが好きで、段ボールや買い物カゴなど初めてのものにはとりあえず一回入ります。特にこの仕事で使っていた道具入れが好きで、仕事用に買いなおしました。

聞いていた通りに人懐っこく、すぐにお腹を見せて撫でろとアピールする。誰かのそばにいるのが好きなようで、私か妻がソファーに座れば椅子の上でじっと寝ていても気付いて飛び降りる。後ろ脚が悪く自力では上がれないため、鼻ドリルでアピールする姿が大好きだった。

推定12歳。後ろ脚が悪く、ソファーに自力で上がれないためいつも無言の訴えをします。時折、気付かないフリをすると鼻ドリルでアピールします。

リムが我が家にやってきて、ちょうど5年ほど経ったときのこと。シニア犬で迎えてから寝ることが多かったので特に気にしてはいなかったが、呼吸が早いように感じる。また、トイレを我慢できなくなり、漏らすことが多くなった。

推定14歳。コロナ禍でお家時間が増えたため、家にいることが多くなりました。夏の暑い日ですが、お互い暑いと思いながらも離れません。

毎月トリミングとシャンプーのために病院へも通っていたので、先生に聞いてみた。そこで一度検査をしてみることに。

「心臓に大きな腫瘍があります」

続けて先生が言葉に詰まる。

「長くて2週間。それもいつできたかわからないので、それよりも短いと思ってください。」

驚きの余り涙も出なかった。食欲もあり、呼吸が早いこと以外特に悪そうな症状は見られない。誤診であることを私たちは願った。心臓に大きな腫瘍ができるのは非常に稀なことで、先生も初めてだという。どうしてそんな珍しい病気にこの子がなってしまったのか、神様なんていないと思った。

誤診を疑った私たちは他の動物病院へセカンドオピニオンを求めることにした。結果は同じだが、少しでも呼吸を楽にさせてあげるために酸素室に入れて様子を見る。肺に溜まった液を抜いてあげることで少しは楽にさせてあげられるかもしれない。当然リスクはあるがどうするかと尋ねられた。延命させるつもりはないが、少しでも楽にさせてあげられるのであればと依頼することにした。

数時間後に病院へ戻ると、酸素室に入っているリムが見える。普段と変わらぬ姿に一安心したのもつかの間だった。注射の際に暴れたようで、曲がった針を見せられる。結果、液を抜くことはできなかった。とりあえず抗がん剤をもらって病院を後にした。

車で5分ほど走り家に着いた瞬間だった。車を車庫へ入れて家に入ると妻の様子がおかしい。リムの名前を何度も叫びながら抱きかかえていた。あんなに早かった呼吸が腕の中で感じにくくなる。そのまま妻の腕の中で静かに逝ってしまった。

妻は自分を責める毎日だった。セカンドオピニオンなどしなければ、あと数日は生きれたはずだ。私たちがリムを殺してしまったと後悔の念が消えない。余計な事をしなければという思いが妻を責め、ペットロスとは違う鬱になった。

夫婦の会話もなくなり、リムがいなくなってから生活は一変した。地獄のような日々を思い返すのも辛い。そんな時リムを保護してくれた方からメールがきた。それがきっかけで会話が戻る。気付けばリムを迎え入れた時のように、次の保護犬を探していた。
ある子犬が二人とも気になった。問い合わせをしてみるとすでに何人か問い合わせがあるという。

「病気があり、それを知って断られました。」

説明文に記載しているにもかかわらず、見た目で可愛いという理由で応募し、立て続けに3人に断られたという。迷わず私は里親を希望した。
譲渡まですぐだった。リムの四十九日が終わってからと考えていたが、待っている時間が無駄に思えた。嫉妬深いリムだが、そんなことで拗ねるような子ではないのは知っている。リムとは毛色も性別も違うが、家族になったこの子を幸せにしてあげたい。私たちが幸せにさせてもらったのだから。