シニアペットと暮らして

リリーのお気に入りの膝

リリーちゃん・18歳
公募

著者/Michineco

リリーは、父の膝の上が一番のお気に入りだった。父が座椅子に座ると必ずリリーが父の膝の上に座った。

私がリリーと出会ったのが2003年の頃。職場の隣に住んでいた職員が子猫のリリーを飼っていた。しかし、リリーを飼っていた職員が引っ越しをすることになった。引っ越し先では猫が飼えないため、猫を引き取ってくれる人を探しており、知り合いに声をかけたがすでに皆に断られて、私が最後の一人だと言う。

2003年。初めてリリーが家に来た時の写真。年は1歳くらい。

リリーは野良の子猫だとは思えないほど、綺麗な猫だった。猫が大好きな私。実家では私が拾ってきた猫を10年ほど飼っていた。しかし、今はいない。数年前いつものように外に出かけて行ったきり戻ってこなくなったのだ。それ以来、両親は「猫はもう飼わない」と言っていた。

事前に話をしても、難色を示していたので、断られる可能性も覚悟したが、両親にリリーを見せると「なんて可愛い猫なの」と言ってリリーを受け入れてくれた。しばらくして、私は結婚すると県外に出ることになり、リリーは実家の猫となった。

帰省して久しぶりにリリーに会った。リリーは父と母が大のお気に入りのようだった。私のことは知らない人という感じでツーンとした態度を取った。しかし、母と父の前だけは甘えた姿を見せるのだ。

母がソファーに座ると必ず膝の上に座る18歳のリリー。電話をすると母の声と共にリリーの「にゃぁあああ」という声も聞こえて、まるで「私もまだ元気だよ」と挨拶してくるようだ。

以前、自由に外を出入りさせていた猫はいなくなってしまったので、リリーだけは完全室内飼いにした。リリーは好奇心旺盛の猫だった。障子に隙間があると手や頭を使ってスライドさせて開けたり、取っ手付きのドアはジャンプをして開けたりすることが出来た。家の中をリリーは自由に歩き回っていた。

ある日、リリーが体調を崩した。肝臓の機能が弱っていたらしい。病院から薬が処方された。私の父もC型肝炎キャリアで肝臓の薬を飲んでいた。看護婦免許を持っている姉が薬を見て言った。「リリーの飲んでる薬、お父さんとおんなじ薬だ」動物も人間も治療する時は同じ薬を飲むのだと初めて知った。

仲良しの父とリリー。飲んでる薬も同じだなんて、どんだけ仲が良いんだろう。薬のおかげでリリーは完治した。父もしばらくは症状も安定していたが、完治するのが難しいため、入退院を繰り返すようになった。

父が不在の間は、リリーは、父がいつも座っていた座椅子の上で父の帰りを待っていた。そして、父が病院から帰ってくると、真っ先に父にすりよっていった。そんなリリーを父はいつも笑顔で招き入れ膝の上を提供するのだった。

2009年の9月。父が他界した。父のお通夜の日。たくさんの人が家に入ってきた。玄関も開けっ放しにしていた。気が付いたらリリーの姿がいなくなっていた。以前、飼っていた猫が外に出て行ったきり帰ってこなくなった記憶が蘇り冷汗が出て来た。

父が亡くなった。そしてずっと一緒にいたリリーも突然いなくなって、母は大変落胆した。あんなに落ち込んだ母を見るのは初めてだった。1か月が過ぎ、2か月が過ぎ・・・毎日のように散歩をしながらリリーを探した。

リリーが姿を消して3か月目に入ろうかという12月のある日、母が「リリーが帰ってきた!」と聞いたことのないような大声をあげていた。外から猫のなき声がしたというのだ。私たちも慌てて下に降りて言ってみると、母がリリーを抱きかかえながら「リリーが戻ってきたー」と、見たことのない笑顔になった。

リリーはガリガリ痩せたいたけれど、餌に飛びつくと勢いよく食べた。静かだった家の中の雰囲気は、リリーが戻ってきてくれたおかげで、明るい雰囲気へ一変した。リリーが無事に戻ってきてくれて本当に良かった。

リリーは母の腕枕で寝るのが好きだ。母が布団に入って寝ていると母の布団に必ず潜り込む。母の脇の下に身体を横たわらせると、母の肩に頭を乗せて顔だけ布団から出して、まるで人間のように眠る。その話を聞いて、「嘘だ~」と思いながらこっそり寝ているところを確認すると、本当に頭だけ出して寝ていたのでビックリした。母とリリーは本当に仲良しだ。

2021年お正月。綺麗な円をかいて寝るリリー

2021年の現在、リリーが家にやってきて18年が経った。人間の歳で言うと、約88歳になるという。寝ている時間が増えたり、食欲は減ったりしながらも元気に暮らしている。病気だった父の膝が一番のお気に入りだったが、今では母の膝がお気に入りだ。

私が母と電話をする時には必ずリリーがー膝の上に座っている。電話で話し始めるといつも膝の上にやってくるのだと言う。電話越しに「にゃあぁああ」と、リリーのしわがれた甘えた声が聞こえてくる。

リリーは病気だった父の傍でいつも寄り添い、今は一人で暮らしている母の傍に寄り添ってくれている。リリーは、いつも傍にいてくれるだけだが、それだけで最高の癒しになるのだ。リリーの声を聞きながら、私は「リリー、いつも私の両親を見守ってくれてありがとう。これからも長生きしてね」と心の中でそっと声をかけている。