シニアペットと暮らして

幸せノート

ロロちゃん・13歳
公募
BOOK掲載

著者/Y.K

ロロとの出会いは12年前。父の知人のつてで我が家にやってきた。小さな小さな雑種の三毛ネコ。子猫を飼うのは初めてだった私は、見た瞬間に「かわいいー!」と叫びそうになった。だがその言葉は、その子の第一声により最後まで発することは出来なかった。
「に゛ゃあああ…!」想像していた子猫のかわいい声とはかけ離れた大きなだみ声に、私は一瞬凍り付いてしまった。よく見ると、鼻の横に茶色い染みのような柄が付いている。はなくそみたいで、かわいくない…私の中の子猫への期待はみるみるしぼんでいった。

ロロ4歳1ヶ月。寝ている姿もアグレッシブです。どんな夢を見ているのかな…?

ロロは4姉妹だったそうだ。この子が選ばれた理由は「一番元気だったから」。他の3匹が大人しくじっとしている中、この子だけが飛び回っていたらしい。ロロらしいなと思う。
ロロはその活発な行動を支えるように毎日よく食べ、どんどん大きくなっていった。普通のメス猫より一回り大きく、オス並みの体格、筋肉質でがっしりしていてかっこいい。性格は、臆病なくせに好奇心旺盛で何にでも興味を示し、お転婆でいつまでも遊び心を忘れない。

ロロ6歳10ヶ月。靴下入れの箱が壊れそう…。箱を見ると入らずにはいられない、箱が大好きな箱入り娘です。この美しい三色の毛色も自慢です。

私が廊下を歩いていると後ろからやってきて、すり抜けざまに前足でポンと私の足を叩いていく。そしてさっと前に走り込んで振り返る。「追いかけっこしよう!」そんな風に誘われたら、乗らないわけにはいかない。「よーし!」と私は追いかける。いつの間にか途中で攻守が交代して、最後には私が捕まり、「捕まえたからご褒美をちょうだい。」となる。ロロはお皿の前まで私を先導し、到着するとかしこまったように座り、私を見上げてぺろりと舌を出す。いつもロロの勝ちだ。
確かにロロは美人ではないだろうけれど、純真でとてもかわいい。最初は驚いただみ声も、聞けば一発でロロだとわかるし、鼻くそのような柄も、絵を描く時にロロのチャームポイントになる。みんなロロだけの特別な個性。
シニアと呼ばれる年齢になってもロロは相変わらずで、食欲も旺盛、鬼ごっこに誘われる毎日。私はずっとロロをシニアとは認識していなかった。ずっとこのまま一緒にいられるものだと、漠然と思っていた。

11歳の冬、突然食べなくなってお医者さんに連れて行くと「慢性腎臓病」だと告げられた。治らない病気。10歳を過ぎた猫の10%が発症する、猫の宿命のような病気だと。見つかった時には大分進行してしまっていた。
私は後悔に泣いた。無知だったことに。腎臓病は早く発見することが大切だ。知っていたら、シニア期に入るなり毎年検診を受けさせていた。もっと早く発見出来ていたら…。
ふと後ろを振り返ると、そこにロロが佇んでいた。無言で、ただそこにいてくれる。猫を飼っていて、一番幸せだと思う瞬間は、私はこの時だと思う。ひとりじゃない。「ひとりにならないで…。」ロロにそう言われている気がして、私ははっとした。

ロロ11歳8ヶ月。病気が見つかって2ヶ月後。目が合うと目を細めてくれます。幸せを感じる瞬間です。

私は泣いていた。ロロとお別れするのが辛くて悲しくて。でもそれは、ロロのためではなく、自分のために泣いているのだ。私は、ひとりになっていた。馬鹿だったと思った。でも、今泣いていたら本当に馬鹿だ。ロロはまだ生きているよ…?まだ出来ることがあるよ。

私はロロとの残りの時間を大切にするため、ノートを付けることにした。1冊は飲んだ薬や食べた物、日々の体調、お医者さんに質問することなどを記す「ロロ観察ノート」。もう1冊は食べた物、飲んだ水の量、嘔吐や排泄などを時系列に記す「ロロ食事ノート」。そしてもう1冊は、「ロロ幸せノート」。
ルールは過去と比べないこと。出来なくなったこと、しなくなったことを数えるのではなく、今日出来たこと、してくれたことを見つけること。今日の嬉しかったこと、幸せに感じたことだけを記すノート。

ロロ13歳0ヶ月。ちょっと不機嫌そう。でもこんなロロもかわいい。チャームポイントの“はなくそ“も素敵でしょう?

ロロは13歳になった。腎臓病のステージは進み、食欲が減退した。ご飯を食べてもらうのに苦労することになるとは以前は思ってもみなかった。ダイエットの心配をしていた頃がおかしいくらい。体重は減って、隆々としていた筋肉も薄くなった。もう追いかけっこに誘ってはくれない。尿毒素の蓄積から心臓の機能も弱ってきて、1日の大半をじっとうずくまり寝ている。
だけど、毎日ノートには幸せが綴られている。
目が合うと目を細めてくれた。なでるとゴロゴロと気持ち良さそうに喉を鳴らしてくれた。コロンと丸くなってお腹を見せてくれた。家に帰ると出迎えて「お帰り」と言ってくれた。抱き上げると暖かくて、胸がいっぱいになる。ロロの小さな頭に頬を寄せる。ああ、幸せだな……!

お腹を見せて寝転がるロロ。この後私の顔に向けて前足を伸ばしてきます。どうやら私がロロの喉をなでてあげるのを逆に私にしてくれようとしているみたいです。爪がちょっと痛いけど、その気持ちが嬉しいです。

ずっと当たり前だと思っていたことが、こんなにも、当たり前ではなかったことに、ロロは毎日教えてくれる。命を輝かせて教えてくれる…。
私は今日も、当たり前ではない「今日」をロロと生きている。