シニアペットと暮らして

百か日が過ぎて…

デミタス・18歳
公募

著者/大内照子

我が家には2匹の猫がいた。ちょっと凶暴だけど優しくお茶目なデミタスと
3歳で腎不全の手術を受け体の中に管を通し生活するお転婆メル夢。
メル夢は3日に1度の皮下点滴と毎日の抗生剤。
2か月に1度は管の洗浄と検査を行いながらも間もなく9歳だ。
私たち夫婦はデミタスをデミ子、メル夢をメル子と気が付けばそう呼んでいた。
その大切だった命の1つが、この春コロナ禍のなか旅立ってしまった。

2002 幼少期デミタス

18歳と3日で、この世を去った愛猫デミ子。
呆気なく逝ってしまったデミ子との時間を振り返った。
猫イコール化け猫を連想するくらい苦手だった私が
何の気なしにペットショップを覗いたその時 縋るような目のワンちゃんを横目に
目を合わせないようにしている子猫の視線が妙に気になった。
『ノルウェージャン フォレストキャット』ノルウェーの森の猫
童話を彷彿させたのか神秘的な気さえしてきた。
生後1か月の小さな彼女を掌に乗せると
まるでふわふわの綿菓子のようだった。言わずもがな一目で恋に落ち
まずはこの子に名前をと、そこで頭に浮かんだのはデミタスカップ。
まさに、このネームがピッタリなほど小粒だったが
もの凄い勢いで7㎏のジャンボ猫となり
18年いう歳月、我が家の女王として君臨したのである。
当時、私は家の中に生き物がいることに喜び
小首を傾げて佇むデミ子に興奮し感動したのを今も忘れられない。
春、窓から臨む眼下一面に真っ白な桜が咲き誇ると
夫の懐にデミ子を抱え夜桜見物に行った。
ほっこりと夫に抱かれるデミ子は本当に幸せそうで愛おしかった。

2013 ベッドで微睡むデミタス11歳

女房きどりで夫に添い寝する彼女の猫パンチは格別で
爪を切れば「ハーッ!」と威嚇され引っ掻かれ噛みつかれと汗だくであった。
夏の朝は日の出とともに早起きで私の上に乗っかっては
頭を抱え舐めまくり「腹減った。起きろ!」とばかりに叩き起こす。
まさに私は飯炊き女だった。当然わが家の序列は夫、デミタス、私の順。
それでもトコトコとおケツを振って歩く姿は微笑ましく
コチラに向かって走ってくるかと思えば寸でのところで、あらぬ方向へ向かってしまう
そんなママゴトのような生活が今となっては懐かしい…
夫の出張時は癒しと慰めをもらい、ご褒美には大好きなお魚をあげ
サザエさんのテーマソングをモジって
お魚くわえたデミちゃん)))彡 追ーいかけ~る~♪ と歌っては勝手に喜んでいた。

2017 ケージの上デミタス15歳

その後わが家に鼻たれ小僧のメル夢もやって来て
メル子が病弱だった分デミ子の健康面は安心しきっていた。
それが昨年ぐらいから少し甘え上手になり私は嬉しくて添い寝の日々が続いた。
彼女は自分の寿命を感じ取ったのか思い起こせば
この時から最後のご奉仕が始まっていたのかもしれない…
年が明けデミ子の目が見えなくなり目に何か薄い幕を張ったように曇っていた。
病院に連れて行くと網膜剥離で見えづらいため薬で血圧を下げれば
視力は少しづつ快復するが、それ以上に腎臓が可なり弱っていると
突然高いところに上らなくなり寄り付かず片隅で寝るようになった。
だが病院でもらった薬が効いたのか最後の気力だったのか
瞬く間に元気になりジャンプもできるようになった。何度も何度も自分が健在なのを
確認するかのように上がっては降り、また上がっては降りを繰り返し
自分の育ったケージで楽しんでいるように見えた。その見たまんまを信じてしまった。

2020 お正月ケージの上で

私たちが心配しないように空元気だったのかもしれないのに…
それから1ケ月も経たないうちにデミ子は衰弱してしまった。
それはあっという間だった。あれ?こんなに軽かった?
どっしりとした重みのあった体がフワッと持ち上がる。
胸騒ぎがした。この予感が当たらないことを願った。
獣医師は衰弱したデミ子を見て見送り方について話し始めた。
3月7日デミ子18歳の誕生日 私たちは手のひらほどの小さなケーキに
18という数字の蝋燭を灯した。これが最後の誕生日となってしまった。
もう大好きなお魚を食べることも叶わなかった。
3月10日の朝 儚くも彼女の命は尽きてしまった。
夫の放った「デミ子おまえはカッコよかったよ」その言葉に涙が溢れた。
猫を人に例えて良いものかわからなかったが同じように供養をした。
百か日なるもの今まで知らなかったのだが、坊さんの説法によると
『四十九日とは命日から数えて49日目に行う追善法要のことを指し
なぜ49日なのかというと仏教では人が亡くなるとあの世で7日毎に極楽浄土に
行けるかの裁判が行われ、その最後の判決の日が49日目となるため』で
百か日法要とは別名「卒哭忌」といい声をあげて泣く「哭」の状態から卒業する。
を意味するらしい。
百か日を迎え、デミ子が天に昇った煙突を我が家から見渡せることに気が付いた。
私たち夫婦に絆という幸せをもたらし猫の極楽浄土へ行ったデミ子にありがとう!
絆の語源は諸説あるようだが動物を繋いでおく綱を指すそうだ。
じゃまた来世もみんな一緒に暮らそうよ!空に向かって手を振った。

2020 今もやんちゃなメル夢